モスクワ滞在編 モスクワ現代美術館「ガレージ」(Garage Museum of Contemporary Art)
皆さんは体験型の美術館はお好きでしょうか?
ただ古典的に作品を眺めるのではなく、実際に手にとってみたり、映像を鑑賞したり、放送を聞いたり。
芸術を視覚以外でも楽しむことができる展示・体験一体型美術館。
私は個人的にはとても好きです。
モスクワ現代美術館『ガレージ』は、そんな体験型の美術館の中でも先鋭的存在。
毎回様々な現代美術とアイデアを駆使した企画展で、斬新なアイディアで私達を驚かせてくれます。
モスクワを拠点とする大手非営利芸術プロジェクトである当美術館は、
商業的な目的は一切追求せず、純粋に現代芸術の発掘と発展、芸術文化の振興へ寄与することを目的としています。
2008年、新興財閥ロマン・アブラモーヴィチ氏の妻、ダーシャ・ジューコワ氏によって創立されました。
創立当初はロシア構成主義建築家のコンスタンチン・メルニコフ氏によって1927年に建てられた
「バフメーチェフスキー・バス・ガレージ」を改築。
そして2015年にゴーリキー公園へ移転し、1960年代レストラン「ヴレメナ・ゴ―ダ(四季)」を改築し、
プレハブコンクリート製パビリオンを改修。
20年以上放置され、当時は落書きだらけだった旧ソビエト時代の廃墟を、現代美術館へ新しく生まれ変わらせています。
新しい美術館の設計を手がけたのは、オランダの建築家、レム・コールハース氏の「OMA(Office for Metropolitan Architecture)」。
ソ連時代のモザイク・タイルやレンガを残したまま、随所にさまざまな工夫を凝らした新旧が介在する革新的な建物となっています。
展示スペースは2階にわたって、ギャラリーやワークショップなどが開催されるクリエイティブセンターを設置。
限りなくシンプルな建物の中で、広々とした空間を贅沢に使用して、多くの作品が開放的に展示されています。
そのため時間を気にせずゆったりと気軽にアートを楽しむことが出来、
なんだかふらっとお茶に寄ったよ、位の感覚で滞在できます。
現代アートは空間スペースも、時間も沢山使ってアートと自己との対話が必要ってことなんだなぁと納得。
今回私が美術館を訪れた際には、ミハイル・リフシッツ著書で、発表当時大変なスキャンダルとなった
『醜さの危機』(The Crisis of Ugliness)刊行50周年を記念し、展示が開催されていました。
ミハイル・リフシッツ(Mikhail Lifshitz)はソビエト連邦のマルクス主義文芸評論家で芸術哲学者。
彼は、初期マルクス主義が芸術において果たすべき役割に関しての文献も多く出版しており、
1968年に発行された『醜さの危機』(The Crisis of Ugliness)はキュービズムとポップアートに対する批判的文集で、
モダニズムの社会的関連性とソビエト連邦での全体的倫理について、唯一まっとうに議論した貴重な作品。
また、当時彼の持論に反論する人が多いにも関わらず、人気となった書簡です。
リフシッツの書簡は全てロシア語のみでこれまで翻訳はありませんでしたが、
今回フィールドリサーチの一環として、当プロジェクト担当した学芸員のデビッド・リフによって
英文翻訳初版が2018年2月に刊行されたとのことです。
3年間のガレージ・フィールド・リサーチ・プロジェクトの結果として、
“If our soup can could speak”(我々のスープが話すことができるならば:展示会題名)は、
リフシッツの本やその他関連書類の出発点として、20世紀と21世紀の前進的な芸術と政治の間の複雑な関係を再調査し、
新古典主義に対するリフシッツの孤独な反対運動の動機と意味を理解することにつながったそうです。
記録資料、アーカイブ素材、複製物、オリジナル作品、フィルムの断片、パフォーマンス要素を使用しながら、
展示会ではリフシッツのモダニズムの全体主義と消費主義に対する批判が、ソ連の標準仕様の西洋芸術非難よりも、
テオドール・アドルノやギー・ドゥボールのような同時代の人々ともっと共通していることが明らかになっています。
これを機に、今まで謎のベールに包まれていたリフシッツの思想が全て解放され、
“art after art”(芸術の後の芸術)の矛盾を巡って豊かな内容の議論を提供・展開しています。
合計10の空間を形成する展示スペースは、リフシッツの思想や革命的なモダニズムにおける
ランドマーク的瞬間を象徴する空間と捉えることができます。
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