《海外旅行》少人数で行く美術鑑賞ツアーは「美の旅」で

モスクワ滞在編 ロシア印象派美術館

2016年5月、モスクワに新しくオープンした『ロシア印象派美術館』。
美術館の常設展示品は、19世紀の初めから終わりにかける100年間のロシアにおける印象派絵画の発展がテーマになっています。

モスクワ市内で最も新しい私立美術館、且つ国内外でも高く評価を得ているということで以前から気になっていたのですが、今回満を持して行ってきました。

来訪した前日がロシアの国民の祝日(国際婦人デー)だったため、週末にかけて休みをとってモスクワ観光に来る国内観光客が続出。
そのため−7°Cの中、美術館外で45分間行列に並び、室内に入ってもチケットを買うまでに20分待ちというソビエト時代を彷彿とさせる行列体験をすることに。
これも旅の醍醐味ということで皆さんに習って辛抱強く待つことに。
おかげで置き土産とばかりにその夜から風邪を引いてしまいましたが、本当に並んで観るほどの価値ありの素晴らしい絵画達が展示されている美術館です。

美術館建物は、モスクワ中心部にある有名な元チョコレート工場「ボルシェヴィク」を全面改装したもの。
改装後、円筒状の建物の歴史的な外観は最大限残しつつ、20世紀初頭のレンガ造りと、金属、コンクリート、ガラスを合わせたロフト・スタイルの新しいデザインに様変わりしました。
また、正面からの様子は、現在販売中の工場の人気製品「ユビレイノエ」ビスケットのデザインを思わせるように作られているとのこと。
展示室は、3階にわたり、その広さは1000平方メートル超になります。

改装を主に手がけたのはイギリスの建築事務所ジョン・マックアスラン&パートナーズとアドバイザーとしてはフランスのコンサルティング会社ロードカルチャー。

室内の行列に並んでチケット購入を待っている間に目を楽しませてくれるのは、入り口にある創作の過程をビジュアルに示したジャン=クリストフ・クーエのモニュメンタルな作品達。
1階から3階までに広がる巨大スクリーンには、最新テクノロジーによって、見えない筆で一筆ごとに傑作が生まれていく様子を眺めることができます。

「今日まで詳しく研究されておらず、過小評価されていたロシア流の印象主義を一から認知し、ロシア文化にとって、芸術を愛する人々にとって意義のあるブロジェクトを作りたい」

と、唱えたのは美術館の創設者で企業家のボリス・ミンツ氏。

投資会社「O1プロパティ」の所有者で芸術文化活動の支援者であるミンツ氏は、モスクワのロシア美術のディーラーの一人に、19~20世紀美術の仲間に加えられたことを契機に15年前から自分用に絵の購入をはじめ、美術館に展示されている絵画の大部分は彼自身のコレクションです。

手始めに、アレクサンドル・ベノワのグラフィック、モスクワ・コンセプチュアリスト代表者の一人であるイリヤ・カバコフからヴァレリー・コシュリャコフまでと現代美術家の作品で今なお多くの芸術愛好家から支持を集める作品からコレクションを開始。

ですが、本当に芸術に夢中になったのは、コンスタンチン・コローヴィン、ボリス・クストージエフ、ヴァレンチン・セロフ、ピョートル・コンチャロフスキーなどのロシア美術の印象主義運動を見てからだそうです。

美術館の展示品の中には、バシリー・パレノフコンスタンチン・コロヴィンボリス・クストヂエフイゴール・グラバーリコンスタンチン・ユオンピョートル・コンチャロフスキーユーリ・ピメノフなどロシアの一流画家達のスケッチを中心とした中小さまざまな作品、70点以上が含まれています。

『冬のモスクワ』
ユーリ・ピメノフ 1950年代

『花々』
ピョートル・コンチャロフスキー 1939

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これらは専門家に言わせると正当な印象派とは言えない作品。
そのため彼らの間ではロシア印象派美術館という名称は民間人の関心を引くためと考え、正式に印象派美術館とは認めていないそうです。
ですが展示品の選出は公に認められている原則によらず、印象派の雰囲気を持っているかどうかで決定されたそうです。
例えば、ロシアを代表する画家のひとりワレンチン・セロフの場合、数ある作品の中でも「」という一つの作品が、肖像画で有名なボリス・クストージエフとしては珍しい「ヴェネツィア」、ピョートル・コンチャロフスキーの「ディナモ・スケート場」など。

Nikolai Tarkhov
Mother´s room in the morning
1910s
Mikhail Shemyakin
Girl in a sailor suite
1910
Vyacheslav Fyodorov
Fog
1970s
Nikolai Dubovskoy
at lake Maggiore
1895
Alexander Gerasimov
Summer day
1950
Boris Gladchenko
a park in early autumn
1970s
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ロシア印象派美術館は、今日まで過小評価されてきた印象派(らしい)芸術家を新たに認識し、型にとらわれないロシア印象派についての新鮮なイメージを来訪者に与えることを確約しているのです。

補足ですが、今回「画家の婦人達」をテーマに特別展が3F展示場で開催されていました。
女性の権利平等を訴える現在の時代兆候を顕著に表しているのと、調度前日が国際婦人デーだっとということで、タイムリーな話題になっています。
ただ面白いなと思ったのは、あくまでも当時のロシア画家の妻は単純に裏方に徹していたわけでも、しとやかに夫を影で支えていたわけでもないということです。
彼女達も大方芸術家、文化人であり、語学に長けた国際通訳者であったりと、夫より高学歴の女性も多かったのです。
また夫の成功により自身も芸術家として開花、成功したという女性達も。
見ていて、今よりよっぽど100年前の女性達は芯があって差別をものともしない強さがあったんだろうなと感じてしまいました。